帰化許可後の帰化無効や帰化取り消しについて
違法な帰化申請は帰化無効・帰化取り消しの対象となるだけでなく、もちろん刑法上の罪にも問われます。このページでは、帰化無効や帰化取り消しなどについて、ご説明しています。
帰化申請は7年殺し
昔から、帰化申請は「行政書士にとって7年殺し」と良く言われます。
ひとつには、帰化申請が国籍業務であると同時に、相続に直接影響する戸籍の編製業務であることから、日韓その他諸国の戸籍や国民(住民)登録の仕組みについて精通していないのに簡単な気持ちで帰化申請を受任してしまったために正しい相続のできない帰化後の日本の戸籍を編纂してしまうと、後から数千万や数億円などというとんでもない損害賠償額を請求される可能性があるためです。
とくに専門職には一般の方よりも厳しい善管注意義務が課せられていますから、日本の各種届出書や母国の諸証明書について十分な調査もしないで(あるいはできないで)、簡単に「無いことの証明」や「不見当のお知らせ」を付けて済ますようなことは本来許されないものです。
また、韓国籍の方の申請で、ろくに除籍謄本を遡りもせず、基本・家族・婚姻・入養・親養という大阪でいうところの基本9セットと本人出生時までの除籍のみを取得して申請をしているようなことを繰り返していると間違いなく、秒読みで抜け出せない大きな失敗の罠にはまります。帰化申請では(それを法務局に提出するかどうかは別として)少なくとも相続と同じように父母の子供の頃まで遡って確認しておく必要があります。たとえ、家族関係登録簿上で日付の辻褄が合っていたとしても、です。それをしないことは、大きな手抜きであり、大きな欠陥のある帰化申請となりかねません。
しかしながら、残念ながら帰化申請はシステム上、そのような場合でも、行政書士が誠心誠意法務局と折衝すれば、簡単に申請が進んで行ってしまうのです。これが本当に困ったことなのです。行政書士としての経験の浅い間は、これを幸運な事と勘違いし、また帰化条件においても当初の緊張がほぐれてきたこととあいまって「上手くやれば、どんな案件でも通るんじゃないか」と錯覚してしまいがちなのですが、はっきり言って「どんな案件でも通ってしまうこと」こそが「7年殺し」に向かう大きな落とし穴なのです。
そして、7年殺しと呼ばれるもうひとつの理由が、このページで説明する帰化許可後に発覚するさまざまな違法性の存在です。
帰化における虚偽申請の罪
まがりなりにも一旦帰化許可がなされた後に、帰化無効や帰化取り消しの対象にさえなりうるような事態に発展した事案であるということは、取り消しや不許可になる案件などよりもはるかに違法性の高い案件であり、申請者は必ず刑法上の責任が追及される状況にあります。
つまり、取り消しとか無効うんぬん以前に、逮捕されます。悲しいことですが、当センターからの申請者の中にも、許可後に逮捕された方はおられます。
虚偽の帰化申請を行った際に適用される罪は、刑法第157条1項であり、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金の刑が科されます。この罪では「未遂は罰する」とされますので、虚偽の帰化申請が許可後や許可前に発覚した場合のみならず書類点検や受付時に虚偽が判明し受付けられなかった場合にも罰せられる可能性はあります。いずれにしても、未遂罪を設けていることは重大な罪であることに間違いありません。
本来、刑法157条1項の公訴時効は5年とされていますが、同行使罪が定められており、長い人生で、ほぼ確実に戸籍謄本を使用しなければいけない場面が出てくるわけですから、半永久的に罪の呪縛からは逃れることはできません。同行使罪にも未遂罪が設けられています。
つまり、帰化申請の虚偽申請の罪には、「一生」、時効はありません。
そして、担当した行政書士については、普段からよほどしっかりした聴取とコンプライアンスに基づいた業務受託規定を確立していないと、ほとんどの場合、共同正犯として刑事罰を受け、行政書士資格も失うことになります。
実際のところ、行政書士会から依頼されて行う帰化申請研修で講義をさせていただく際には、行政書士になったばかりの方を前に「依頼者からの聴き取りは初回から必ず慎重に丁寧に行わなければならない!」と毎回口酸っぱすぎるくらい申し上げており、なおかつ自身も、依頼者だけでなくご家族も含め十分に聴取するように心掛けているにも関わらず、虚偽の内容や過去の事実の発露により平均して2年に1件程度はクライアントが逮捕されるような事件に、当センター自身が遭遇します。
当センターは帰化申請数が圧倒的に多いので、どうしても様々な案件に遭遇するのは仕方がないのかもしれません。行政書士を開業したばかりの頃は「帰化許可率100%」とか全く意味の無いPRをしていられるのですが(経験がほとんどないので100%は当然です)、不許可案件の再申請や他の行政書士があきらめた案件などの高度な事件を扱うようになり、取り下げなどを経験して初めて一人前といえるものの、信用していた依頼者が許可後に逮捕されるというような事態に出会うと非常に悲しい思いがいたします。
入管業務や帰化業務は他の申請より犯罪に巻き込まれる可能性が高いのかも知れませんが、真面目にやっていても遭遇します。許可前にも許可後にも逮捕されます。経験から、万が一の事態に備え平素より様々な対策を講じておりますので何とか仕事を続けさせていただいておりますが、よく一度も共犯の疑いを掛けられることもなく過ごせて来られたことと、つくづく感謝していますと共に、断るべき申請は断りずっと正しい姿勢で真面目にやってきたことの効用を、悲しい事件がある度にあらためて痛感いたします。
帰化無効と帰化許可取り消し
上記のような犯罪に発展するようなケースでは、法理上は帰化無効や帰化取り消しがありえます。
帰化申請の内容や手続きに重大な瑕疵があり「重大且つ明白な違法性」が存在する場合には、帰化無効に至ります。
帰化無効は公訴時効などとは関係なく「重大且つ明白な違法性」が発露した時点で遡って無効となりますから、重大な虚偽の帰化申請を行った者は一生おびえ続けなければなりません。
ただ、帰化条件自体は帰化の効力要件とはされていませんので、帰化許可という行政処分が行われた限りは、単に「実は帰化条件に背反しているものを具備していると誤って審査した」程度の過誤では「重大且つ明白な違法性」とはいえず帰化無効とはなりません。
一方で、帰化条件に背反した帰化許可の処分庁による取り消しについては、一般行政法の法理に従い,瑕疵の程度や,取消しの公益上の必要性と被処分者の不利益との比較考量などを考慮し,法務大臣において取り消すこともありえますが、こちらも過去には例がありません。ただ、帰化取り消しとは意味合いが違いますが、帰化の告示取り消しは、しばしば行われています。
また、帰化申請時の虚偽内容によっては、帰化無効や帰化取り消しと全く違った論理から、帰化許可後も日本国籍を保持しえず、国外退去させられる事例もあります。
いずれにしても、帰化許可がなされたからといって、虚偽申請が野放しにされることはありません。世の中、甘くありません。帰化許可後であっても、いつの日か「必ず」発覚し、申請者自身も関与した行政書士も、責任を取らないといけない仕組みにになっています。一般的には数年から10年程度で、あるいは数十年掛かってでも、「絶対に」発覚する非常に旨いシステムとなっているのです。
帰化無効と帰化許可取り消し
法務大臣による帰化の不許可決定の処分は、行政事件訴訟法にいう取消訴訟の対象たる行政処分であり、「処分の取り消しの訴え」を提起することができることは判例で認められています。
しかしながら、国籍法に基づく帰化許可申請に対する判断を行う際に「日本国」や「法務大臣」は広範な裁量権を有しているものとされますので、法務大臣の帰化の許否に関する判断が違法とされるのは裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用したものと認められる場合のみであり、処分取り消しの訴えが認められることはまずありえませんし、過去に認められた例は1件もありません。
ですから、帰化申請はよほど金銭的に困窮している場合でない限り、専門家に依頼して1回で通す必要があります。また、専門家に依頼できないくらい生活に困窮していることは、帰化の条件のひとつである生計条件上の大きなハードルとなりますので、生活が安定してから申請されることをおすすめします。
認知無効と「その他の誤認知」による国籍の喪失
国籍に関する日本国の「姿勢」がよくわかる国籍法の改正がありました。
まず、嫡出推定制度の見直しの一環としての民法の改正の中で、民法第786条が次のように改正されました。
改正前民法
第786条 子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。
改正後民法
第 786 条 次の各号に掲げる者は,それぞれ当該各号に定める時(第783条第1項の規定による認知がされた場合にあっては,子の出生の時)から7年以内に限り,認知について反対の事実があることを理由として,認知の無効の訴えを提起することができる。ただし,第三号に掲げる者について,その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは,この限りでない。
一 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時
二 認知をした者 認知の時
三 子の母 子の母が認知を知った時
2 子は,その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは,そのうち最も長い期間)が3年を下回るときは,前項(第一号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず,21 歳に達するまでの間,認知の無効の訴えを提起することができる。ただし,子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは,この限りでない。
3 前項の規定は,同項に規定する子の法定代理人が第1項の認知の無効の訴えを提起する場合には,適用しない。
4 第1項及び第2項の規定により認知が無効とされた場合であっても,子は,認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。
民法改正後に変わったこと。変わらないこと。
上記の民法改正により、出訴期間が全くなく一生認知無効が訴えられる状況にあったものが、「認知無効の訴えとしては」出訴期間が決められました。一方で親子関係不存在確認の訴えには出訴期間はありませんので、認知が事実と相違する場合にはやはり一生親子関係が否定されることになります。
国籍法の改正
国籍法上は「認知届」という簡単な手続きによって国籍は取得できてしまうため、そのままだと認知無効の訴えの出訴期間が短縮された事で「違法な認知によって日本国籍を取得しても、原則は7年間逃げとおしたら、虚偽であってもずっと日本人として暮らしていけてしまう」ために、国籍法に条文が追加されました。
改正後国籍法
第3条 父又は母が認知した子で十八歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。
3 前二項の規定は、認知について反対の事実があるときは、適用しない。(条文追加)
この条文追加は、今回の民法改正によって「認知無効の訴えとしての」出訴期間が経過したとしても、内容に虚偽があれば日本国籍を剥奪するという日本国の強い意志を示すものです。
現実には認知無効の出訴期間が過ぎても「親子関係不存在確認の訴え」はいつまでもできるので、親子関係が存在しない事実があれば国籍を喪失します。
実際にこれまでの取り扱いを考える上では、申請支援センターは、認知どころか、嫡出子として出生した方が、父から親子関係不存在の訴えを起こされて、外国人母の非嫡出子となった瞬間に日本国籍を剥奪された方の帰化申請を取り扱ったこともありました。
帰化申請では最高に思いペナルティーとなる「在留特別許可」の問題を内在する重い案件でしたが、みごと許可され日本人となられました。
いずれにしても、国籍法第三条の改正はこれまでと国籍に関する取扱いは「変わりません」ということを明示するためのものでした。国籍を違法な形で取得した方は、生涯眠れない日々を過ごすだけでなく、その子孫も不安定な状況にさらされるのです。
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