「嫡出推定の及ぶ嫡出子」として出生届出が認められるようになった場合として、例えば、次のようなケースを考えてみて下さい。
もともと性同一性障害で悩みながらも婚姻生活を続けてきた(前)A子さんがいたとしましょう。
A子さんは自分の意に反しながらも親の薦めでB雄さんと結婚し子供のC雄君も成人して独立したこともあり、B雄さんに愛が無かったことを打ち明けて離婚し、その後性転換の上性別変更しA男さんとして戸籍上も男となった上で、D子さんと婚姻し第三者であるE助さんの精子提供を受け、D子さんはF男君を出産しました。
仮に、その時の世の中に「第三者精液提供人工授精子は法律上の夫の嫡出子としてみなす」という法律ができていたわけではないが、「嫡出推定の及ぶ嫡出子」として出生届出をすること自体は可能な世の中となっていれば、A男さんはF男君に親子関係の心配を掛けたくない、生まれた時から自分の子供だよ、と認めてあげたくて、迷わず嫡出子届出をすることでしょう。嫡出子届出をするということはあらためて養子縁組することはできなくなります。
ところが、A男さんとF男君の関係は、あくまで「推定が及んでいるだけ」のことで反証を挙げることができれば簡単に覆るわけであり、もともと確実にE助さんの精子提供を受けていることははっきりしているわけですから訴えが起きれば「かなりの確率で」覆ることでしょう。
つまり、A男さんの相続時に、A男さんが女性であった頃に出産したC雄君が、A男さんの第一順位の相続人は自分だけだと主張してA男さんとF男君の親子関係不存在確認の訴えを起こした場合には、F男君は相続人でなくなってしまいます。
C雄さんやB雄さんをはじめとした前夫の関係者から見ると、A男(A子)さんはなんと勝手な行いをしたのだろうと映っているに違いないでしょうから、現実に訴えられる可能性も低くないことでしょう。
また、他の第二順位・第三順位の相続人や、場合によってはE助さんやその他の人物からの訴えも起こらないとは限りません。(A男さん自身からは信義則上、訴えることはできないでしょう)
もともとは、生まれた子の精神的な幸せのために嫡出子届出をしたものが、子供にとっては、養子縁組をしてもらうこともできず、結果的に悲しい結末に終わってしまうことになるのです。
今回の事件も裁判に至った場合には、担当される判事も、簡単に、この或る特定の案件の、目の前の幸せだけを考えて、決めることはできません。もちろん、この或る特定の案件の、目の前の幸せのみも解決してあげなければなりません。本当に悩まれることでしょう。
性別変更後の第三者精子提供人工授精子の嫡出子出生届出を認めることは、単純にヒューマニズムだけから論議すべき問題ではないのです。
容認が世の中に与える影響も考慮しながら、相続財産上の問題や関係する全ての人々の事も考えておかなければなりません。
性同一性障害の方の帰化申請その1
性同一性障害の方の帰化申請その2
性同一性障害の方の帰化申請その3
性同一性障害の方の帰化申請その4
性同一性障害の方の帰化申請その5
性同一性障害の方の帰化申請その6
性同一性障害の方の帰化申請その7
性同一性障害の方の帰化申請その8
性同一性障害の方の帰化申請その9
提供:帰化申請の「ASC申請支援センター」