既に日本人となった子供の為に帰化申請する親御さん

 還暦も既に越えてから帰化申請のご依頼で申請支援センターにお越しになられる在日韓国人の方も、よくいらっしゃいます。

 この位の年齢になられると、ほとんどの方の帰化の動機は、子供さんやお孫さんのためであることが多いです。

 そして、その多くが日本人になった子供の「日本での」戸籍の父母欄に自分の韓国の本名が記載されているので、自分も帰化して日本の名前になって、子供の父や母の名前を日本名にしてあげたいという親心です。

 私は皆さんに「戸籍の事など、これっぽっちも気にしなくていいんじゃないですか(笑)」と相談時に言うのですが、ご本人は「せっかく子供が帰化できたのに、私たち親が帰化しないことで日本の戸籍の父母欄が韓国の名前のままであることが子供にとってショックだったようです」とおっしゃいます。
 そういう時は、さらに私は「だいいち、戸籍なんて他人が見ようと思っても見られないものなんですよ」と安心させてあげようと必死で言葉を掛けるのですが、「日本人の方と結婚したら同じ戸籍に入りますから他人じゃなくなる家族や孫に対して、子供に気を使わせたくないのです。」とかたくななご返事をされた方もいました。
 これは、親御さん側が非常に子供さんの将来について、親身に考えてくださった例です。

 逆に、帰化した子供さんがお父さんを連れて相談に来られたこともあります。
 お母さんは亡くなられていたので帰化申請のやりようが無かったのですが、調査の末、母欄は日本風の名前に変えることができました。お父さん自身は日本風の名前に訂正する条件を満たさなかったので、90歳を越えられた年齢でいらっしゃいましたが帰化申請をしてもらいました。

 帰化の動機と言うのは、人間の胸の中の意志決定の経緯に関わるものなので「何々だけのため」といった一元的なものではなく、日本国内で長年暮らしてきた中で積もり重なったさまざまな思いが動機となって帰化を決断されるわけです。
 そして、少なくとも特別永住者をはじめとする生来の日本居住者の方は多かれ少なかれ帰化したい様々な動機を「子供のためだけではなく、自分自身が」持っていらっしゃいます。
 
 ご自分が帰化申請したい思いは、人生の中で持ち続けて来られて当然です。
 だって、この日本でずっと暮らしてきたのですから。

 ただ同時に、親御さんのさらに親の反対で帰化申請させてもらえなかったり、過去に帰化条件を満たさず帰化申請できなかったり、長い人生の中で自分をあきらめさせるために積み重ねた「帰化しない動機」というものを持っておられ、「帰化したい動機」とを秤にかけて、帰化しない動機の方が大きいうちは、帰化申請を決断されません。

 しかし、「子供への親心」を「帰化したい動機」の側に乗せたら、秤が傾いて、重い腰を上げることになったというのが、実際の流れなのでしょう。

 ですから、帰化申請をご依頼に来られた際には「わし自身は、もうこの年齢だから、今さら帰化しようが、帰化しようまいが、どちらでもええねん。」とほとんどの親御さんが口を揃えられるのですが、無事に帰化が許可になった時には、むしろ子供さんよりもさらに幸せな笑顔でありがとうとお礼を仰っていただけます。

 私にとっても、一番うれしい瞬間です。