自分自身は帰化申請の必要を考えていないけれど

 申請支援センターの帰化相談会にお越しになられた特別永住者の方の何割かの方が「自分自身は帰化申請の必要を感じていないのですが」と話を切り出されます。

 これは特別永住者の方か、幼少時に来日され長く日本人社会で暮らして来られた方に限って聞く言葉といってもよいでしょう。
 中でも特に中高年以降の方が多いです。

 若い世代の方は、もう一日でも早く申請したかったけど機会がなくて、とカラッと話されることが多いのですが、ある程度年齢を経た方の中の一部の方から、少しウエットな口調で帰化は自分の希望じゃないんですと始められる場合があるのです。

 「自分自身は帰化申請の必要を感じていないのですが、子供の将来のために。」
 とか、
 「自分自身は特に日本人になりたくもないんだが、先に帰化した兄弟がしきりに勧めるもんで。」とか。

 そして、それを切り出されるのが、最初の挨拶の時でもなく、「何故帰化したいんですか?」と特に聞いたわけでもないのに、帰化条件の該当性判断の質問中や帰化書類の説明中に、脈絡なく唐突に切り出されることも多いのです。

 帰化したくない人が帰化を認められてよいはずがないので、「ほな、やめまひょ。」とか「最終的に帰化を決断した限りは、そんな言葉は胸の一番奥にしまうか、心の中から棄てて下さい。」とハッキリ申し上げることにしています。
 「日本人になりたくないのに日本人になっちゃったら不幸ですよ」と。

 そんな単刀直入な私の言葉を聞いても「じゃあ、やっぱり辞めます」とおっしゃられる方は一人もいません。

 「わかってます、わかってます。行政書士さんにだけは言っておこうと思って」とあいまいに返事され、私もそれ以上は深く追及いたしません。

 私がそれ以上追及しないのは、「ほな、やめまひょ。」とまで言われて、それでもご依頼になられる方に、「本当は帰化したくない」特別永住者の方など世の中にひとりも居ないからです。

 日本で生まれ育った特別永住者の方であれば、物心付いてから今日までの間に自分の国籍の事で一度も疑問を持った事の無い方は一人も居ないと言っていいでしょう。
 しかし、ある程度の年齢を重ねるなかで、自分の運命を受け入れて思い悩む心に打ち勝って来られたからこそ中高年の年齢まで人生を積み重ねて来ることができたのです。

 その人生の歴史の中で、一時的に民族意識に目覚める事で悩みを払拭された方もいらっしゃれば、国籍はレジストレイション上の事だけで心が日本人であればいいじゃないかと感情を制御した方もいる事でしょう。
 それぞれの方が一番自分に合った方法で長年に亘りアイデンティティーのバランスを取ってこられたのです。

 それが帰化申請の決心をしたとたんに、ずっとずっと日本人になりたかったのです、と告白するなんてできっこなくても当然のことです。

 だから、私は深く追及しません。
 一方で、日本人になんてなりたくない方は帰化申請しちゃいけないことは、はっきりと認識しておいてもらわねばなりません。

 帰化申請者の方と二人三脚で申請を進めていく中で、申請支援センターと沢山の無駄話をする機会があります。

 そして、ほとんどの方が無駄話の中で、ゆっくりと、日本人になっていかれます。

 ASC申請支援センターの本当の得意分野は、帰化許可ではなく「日本人になっていただくこと」にあります。
 日本人としての心の幸せ・安らぎを手に入れない事には、帰化をすることは無意味です。

 そしてこの馬鹿げた自信は、経験と実績に基づくものなのです。