かきつばたのお話。杜若。華道大阪
first created August 12,2003;last updated August 12,2003

華道・大阪


 当流のかきつばたに魅せられて、毎年たくさんの方が入門や転流をなさってこられます。
 少し、流花のかきつばたについてお話しておきましょう。







 
    杜若(カキツバタ・書付花・燕子花)・葉蘭(はらん・バラン)・春玉(すいせん・水仙)を、華道では昔から "三難物" と称し、どれも花姿を整えるのが難しい花材としています。
 幸いにして今日では、はらんの仮ぐくりとしてドレスピンを用いたり、すいせんの葉に一部針金を入れるなど、いけやすくするための研究を流派で重ねた結果、十数回の勉強で一応基本的な花姿を整えられるようになってまいりました。
 そんな今日でもなお、どちらのいけばな流派でも特に難しいとされるのが、かきつばたなのです


  




 世阿弥の謡曲「杜若」の中に「似たり似たり杜若、花菖蒲」というくだりがあり、少し俗っぽく「いずれアヤメかカキツバタ」と美しい女性を比喩いたします。
 たしかに、いずれも同じアヤメ科に属し、あやめも花しょうぶも、かきつばたに非常に似た花材ですが、それぞれの特徴から簡単に見分けることができます。詳しい違いは園芸サイトさんにお譲りし、下記に簡単な見分け方をご紹介するにとどめますが、華道の観点から知っておいていただきたいことは、よく似た花でも花材の微妙な違いから「いけ方」も自ずと違ってくるということです。

 さて、左の写真の花姿から、はたしてあやめなのか、花しょうぶなのか、あるいはかきつばたなのか、おわかりになられるでしょうか?


ご参考
 あやめ    花しょうぶ※2 かきつばた
花※1
花の特徴 外花被の根元に文目(アヤメ)模様 外花被の根元が黄色 外花被の根元が白に黄線
葉の特徴 主脈がほとんど目立たない
葉幅は狭め
主脈が中央に太く通る
葉幅はさまざま
主脈がほとんど目立たない
葉幅は広め
生育地 乾燥地、山地 主に湿地ではあるが、乾燥地にも生育する 湿地、浅い水辺
 ※1.一般に花びらと呼んでいる部分は位置からするとがくにあたりますが、花弁とがくが同質で区別の付かない植物なので外花被(片)と呼びます。
 ※2.菖蒲湯に使う菖蒲は、サトイモ科の植物で花菖蒲とは異なります(右上写真)。また、あやめも「菖蒲」と書いて「あやめ」と読むので、いっそう混乱いたしますね。
 ※3.あやめ模様は下写真。
          



 始祖未生齋一甫が口伝書「挿花百練」の中で説いた未生流の基本的な教義は「挿花として命を与えることで、草木が自身では現せない美を、そなえるようにするもの」であり、「草木を生み出した天地の創生以前をも観じた上で、その花がそなえるべき美を与えてやらねばならない」という意味が、どうやら「未生」という名前に込められているようです。

 「どうやら」とすっきりしない言い方をいたしましたが、実は、「挿花百練」の中で一甫は「当流を未生と名附ける理由は・・・」とやりだすのですが、「自分で研究して悟るしかない。」と突き放しているのです。おまけに、このお話自体、笹岡勲甫お家元の著された「挿花百練提要」からのウケウリなもので「悟る」には程遠いのですが、始祖自身が「自分で考えなさい」とおっしゃっていますので、自分なりの理解を申し上げることをお許しいただきましょう。上達するための修行としては、それぞれの花の「このように生まれてきたかった」という声を聞いてあげて、その姿を与えてあげる技を磨くということでいいのではないかと存じます。

 では、かきつばたの声は「どのように生まれてきたかった」と聞こえますでしょうか?
 個人的にはかきつばたに女性的な性格を感じます。さきの謡曲「杜若」では、杜若の精は「艶やかで美しい舞」を披露いたしました。私の耳には「女性的で優雅な曲線を与えてください!」と懇願している声が聞こえるような気がいたします。だって、ためてもらいやすいように、葉の主脈も持たずに生まれてきているのですから。
 かきつばたは、「勢いよく」「艶やかに」「舞うように」ためつつ、いけてあげるのがよろしいでしょう。

 一方、花菖蒲では、そうはいきません。
 前章の問題の答えは「花菖蒲」です。葉に主脈が通っている花菖蒲をかきつばたのようにためてやるのは理にかなったことではありません。また、あやめは山地に生育しますので、厳密にはいけばなでは「みずもの」として扱いません。ともかく、花菖蒲は前章の写真のように、雄々しくまっすぐにすらりといけてやるのが未生に適った姿なのです。節句に使う菖蒲とは別物とはいえ、花菖蒲は端午の節句、男の子のイメージですね。

 もちろん、「雄々しく活けて欲しい」と願うかきつばたの声を聞けば、そのようにいけてあげればよろしいかと存じます。当流のいけばなでも、男性的にかきつばたをいけることは多々ございます(左写真)。要は、かきつばたを男性的にも女性的にも自在にあやつりいけることができる選択肢が未生流笹岡にはあるということです。

 冒頭で申しましたとおり、かきつばたは三難物のひとつでありますから、各流派とも力を入れておりますので、インターネットで検索すれば多くの作品に出会えると存じます。
 しかし、当流の花姿は他の追随を許しません。直接にリンクをいたしますのも批評めいたことになりますので、いちどご自分の目で確かめてみてください。検索キーワードは「かきつばた花材(□はスペース)」などでいいのではないでしょうか。


いかがでしたでしょうか?
未生流笹岡の花姿の良さ、おもしろさを、あらためてご理解いただけたことと存じます。





寸法表

 私が習い始めた頃には、かきつばたというと、それはもう大変なものでした。何しろ、葉を選んでから、ただちに葉組みにとりかかれなかったからです。
 かきつばたの葉の表面には油分があり、形良く葉組みするのを邪魔いたします。そのため、葉組みに取り掛かる前に、海綿をつかって油分をこすり落としてやる必要がございました。ところが、これがなかなか大変な作業なのです。
 こすり落とすといっても、力まかせにゴシゴシ、というわけにはいきません。なんたって、「いけ」花なのですから。傷つけてしまうと、葉持ちも悪くなり、「死んだ」花になってしまいます。デリケートに、優しく、丁寧に、こすってやる。ひたすら、こすってやる。そうして、初めてかきつばたがこちらの言うことを渋々聞いてくれるようになるのです。小さな作品でも、一瓶分全ての葉をこすり終わるまでに長い時間を要したものでした。
 当時は、門外不出的な感もございましたが、たとえ「こすればよい」ということを他流派の方が知りえたとしても(もちろんご存知でしたでしょう)、「どの程度までこすれば、言うことを聞くのか」「どのようにこすればいいのか」そして「いかすことができるのか」という笹岡の技は再現できなかったことと存じます。
 幸いにして、今日では、お家元の母校である京大の薬学部教授との共同研究によりまして、未生流笹岡の「かきつばたの液」が開発され、お稽古も随分と楽になりました。普通に油を分解するだけの薬では2,3日で花材が死んでしまったりと、長期間の苦しい研究があったとお聞きしています。かきつばたの命は、その「青み」にあります。油分を取ってしまうと短時間で葉が赤変してしまうのです。「青み」を保持しつつ葉組みを容易にする未生流笹岡の「かきつばたの液」は、他流派のお家元も買いに見えられるほどです。
 また、かきつばたの花姿の良さも他流派の垂涎の的であり、このページの下に掲示した写真は「八つ橋の景」という有名なかきつばたの構図なのですが、笹岡勲甫家元は非常にフランクな方で、自ら古書から再現された技法を、未生流関連他流派をはじめとして様々な流派のお家元や幹部の方々に伝授されておられます。流派を越えて賞賛される理論と技法が確立しているからこそのエピソードです。

 そして、なによりも有難いことには、かきつばたに限らず、これらの技術は全ての門人に情報開示されています。また、花矩(はながね)を具象化した「寸法表」によって、技術さえともなえば、どなたにでも良い花姿を再現することができます
 前近代的な徒弟制度を廃した合理的な教授システムが、当流派の誇りなのです


茶道裏千家華道未生流笹岡お花とお茶のアトリエ.com大阪
茶道裏千家華道未生流笹岡お花とお茶のアトリエ.comフラワーデザインアレンジメント大阪



<PR>
帰化申請
 

Copyright(C)2003 Juho Yoshida, All rights reserved.