蓮舫議員の台湾国籍喪失なさっていないであろう法的根拠

 先週から申請支援センターの帰化申請のホームページのアクセス数が平時の2倍程度に増えています。

 帰化申請サイトのアクセスが急増するのは、オリンピック、サッカーワールドカップ、ワールドベースボールなどで日本が良い成績を残した際に、日本に住まわれている在日の特別永住者の方がご自分の中の「日本人としての自分」に気付かれ、帰化申請を検討されて検索していただく事が多いので大歓迎なのですが、オリンピックも終わったこの頃にオリンピック開催中より多い閲覧数となるのは異様なことです。

 検索いただいた言葉を調べてみると普段通りの「帰化申請」に次いで、「台湾国籍」「台湾 国籍離脱」「台湾 帰化申請」などの言葉が並んでいます。
 なるほど。
 蓮舫さんの二重国籍疑惑で検索をされている方が、アクセス数を押し上げていたのです。
 帰化申請と関係ない話で閲覧されているので、少し落胆しました。

 しかし、二重国籍に関する事は帰化の専門家としては看過できない大事な事なので、この機会に考察しておきましょう。

 まず、一番大事なことは、日本人であるかどうかという事です。

 帰化申請によって日本国籍を得たとしても、昭和59年の国籍法改正時の附則第5条の国籍の取得の特例による経過措置(※1)により日本国籍を取得したとしても、日本国籍を所持している時点で二重国籍であれなんであれ日本人ですから、蓮舫さんは私たちと同じ国の大切な仲間です。
 
 仮に二重国籍であったとしても、国籍法第十五条の催告を受けてさらに放っておいて日本国籍を喪失した者は「現行法上、誰一人居ない」とされていますから、間違いなく日本人でしょう。

 一般の国民であれば、もうその時点で、あまりとやかく言ってあげるのはかわいそうかもしれません。本来は、一般の国民でもとやかく言うべきですが、公の場で糾弾される事ではなく、法務大臣が先の催告を粛々と行って行けば良いだけです。

 しかし、日本の法律を作る立場の国会議員が、万が一、二重国籍であれば、日本の「国民主権」を揺るがすような大事件ですから、世論の矛先とならざるを得ない事ではあります。
 なお、外国籍を保持している”日本人”については公職選挙法上はとくに触れられていないので二重国籍の国会議員が存在することは少なくとも違法ではありません。
 はっきり言って、法の欠缺なのですが、「二重国籍の国会議員がいたらどうなるだろう」なんてことは国籍法改正時に予定されていなかったし、予定していなかった事も日本国民みんなで考えていかなければならない時代になって来たというだけの事です。

 このあたりで動きが速いのは日本維新の会で、蓮舫さんの疑惑での世論の盛り上がりを見てすでに国会議員の二重国籍禁止法案の提出の検討を発表しています。
 国会議員は「法律を作るのが仕事」ですから他国の国籍を持つ人が作った法律で日本の世の中が動いていくことを「よしとするかどうか」は十分に議論を尽くさなければなりませんから当たり前の事です。

 僕はイヤやな。よしとしない。
 帰化された方でも、国籍取得届出された方でも、全然かまわない。
 でも、日本の国会議員には日本国籍だけの日本人の方になってほしいです。

 国民主権。
 常に日本国憲法の次に掲げられる日本国国籍法において、二重国籍を認めていない立法趣旨はそこにあります。
 今の世論の高まりや、こうやって「台湾国籍」で検索して、うちのホームページにやってこられる方が急増している事は、まさにソレを日本国民が心配しているのだと思います。

 では、国会議員である蓮舫さんが台湾国籍を喪失しているのか、という事について触れてみましょう。

 蓮舫さんが帰化申請により日本国籍を取得している場合では、現在の帰化行政における台湾国籍の方の帰化申請の扱いでは帰化の受付の後、帰化許可が内定した時点で台湾の国籍喪失許可証を提出させられますから二重国籍となることはまずありえません。
 蓮舫さんが国籍を取得されたとされる昭和60年当時は私はまだ帰化申請の仕事をしていませんでしたから自分の経験としてこうだったとは言えないのですが、法務局を退職された相談員の話では以前は帰化申請の受理前に国籍喪失の手続きをさせていたとの事ですので、帰化申請をしていたとするとやはり二重国籍となることはなかったことでしょう。

 しかし、蓮舫さん自身の説明では、帰化申請ではなく昭和59年の国籍法改正時の附則第5条による国籍の取得の特例により昭和60年に国籍取得をしたという事ですので、「申請」ではなく「届出」による国籍の取得であるため、国籍法5条の条件とは関係なく日本国籍を取得しているため、届出前に本国国籍を離脱しないと受理しないなどという扱いがされることはなかったものと思われます。

 ところで、蓮舫さんが日本国籍を取得した当時に国籍喪失ができたのでしょぅか。

 現在の台湾国籍法第11条5号では「年滿二十歲,依中華民國法律有行為能力人,自願取得外國國籍者。依前項規定喪失中華民國國籍者,其未成年子女,經內政部許可,隨同喪失中華民國國籍。」とあり、台湾から見た外国国籍の自願取得、つまり、蓮舫さん一家のように自分の意思で申請や届出を行って外国籍を取得した者は、本人が20歳を越えているか、その子供であれば、内政部の許可を経て中華民国国籍を喪失するとあります。

 台湾では自動的に国籍喪失をするのではなく、国籍喪失について申請により許可されるわけです。
 これを中華民國國籍喪失許可申請といいます。

 しかし、上記の「其未成年子女,經內政部許可,隨同喪失中華民國國籍」という文言が、台湾の国籍法に付け加えられたのは、民国89年(平成12年)2月9日施行の国籍法であり、蓮舫さんが日本国籍を取得した昭和60年は民國18年(昭和4年)の台湾国籍法が適用された時代です。

 当時の国籍法においては、第11条に「自願取得外國國籍者,經內政部之許可,得喪失中華民國國籍。但以年滿二十歲以上,依中國法有能力者為限。」としかありません。
 つまり、まだ17歳であった方が、台湾国籍の喪失許可を得ることはできなかったはずです。
 少なくとも、20歳になった以降に台湾の国籍喪失許可申請をおこなっていなければ台湾国籍を喪失している事は「超法規的な取り扱いがなければ」ありえません。

 日本は台湾を国籍として承認していない事から、蓮舫さんは中国国籍であったので、中国国籍は二重国籍を認めていないから二重国籍にならないという議論もあります。
 しかし、中華人民共和国も1980年に既に成立していた中華人民共和国国籍法上は第9条により多国籍を自進取得した時には即時喪失し第14条ではわざわざ第9条に規定される場合を除き申請をしないといけない、つまり第9条による場合は申請が不要ですと決めていますが、帰化申請において日本国は「退出中国国籍申請」という手続きを求めてきました。これまで、帰化申請する人はみんなちゃんと退出中国国籍申請をして(退出)国籍証明書を得てから帰化申請をいたします。不要と言う事になるとこれまで法務省が行って来た国籍行政自体が全部間違っていたことになるわけです。

 日本においては、北朝鮮のように国家が存在しないから承認しない、という立場とはまた違って、台湾に対する日本国の認識は、中華民国という未承認の国家が「存在する」という扱いです。
 中華人民共和国においても、青緑のパスポートを持っている人には(退出)国籍証明書は発行してくれません。国籍法第9条によって中国国籍を喪失する中国公民である、つまり中国国籍である、ということを証明してくれないのです。
 中国公民だから台湾国籍離脱不要だと言う事になると、台湾の青緑色のパスポートを持っている人でも全て、台湾国籍喪失許可証を提出する事を拒否できることになってしまいます。
 帰化申請を扱っている行政書士も上や下への大騒ぎになる事でしょう。  

 最後に、二重国籍なのかどうかという点について。

 帰化申請にしても、国籍取得にしても、日本の国籍を得ただけでは、台湾の方が国籍を自動喪失する事はありません。台湾から日本に帰化される多くの方が、ひとりひとり面倒な国籍離脱の申請を真摯になさっているのです。日本の法律で自動喪失させられないからこそ、国籍法第5条5号の条件があり、5条2項があるのです。

 日本において、二重国籍となった者が単一国籍とするべきことは、「努力義務」ではなく「義務」です。

 国籍選択の宣言をしていない者については、外国国籍離脱の手続きをすることは単なる「努力義務」ではありません。「日本国民としての義務」です。
 「努力義務」とされるのは”本当に国籍選択の宣言を行った”人が、外国国籍の離脱に努める義務です。もちろん、努力も何も、みんな義務は、義務です。

 日本国としての取り扱いは、台湾国籍喪失許可を得ているか、日本国に国籍選択の宣言を行っているか、どちらかがあれば、二重国籍とは扱いません。

 とくに国籍選択の宣言は二重国籍を認めない国である日本が、ブラジルのように国籍離脱ができない国の方や、まさに当時の蓮舫さんがそうであったように行為能力が認められない未成年の間は国籍離脱ができない国の方など「自分が望んでも外国戸籍を失う事がどうしてもできない」国の方を救済することができるという、日本国民のお人好しな性格を世界に誇れる非常に優れた制度です。
 本国国籍を離脱するか、国籍選択の宣言をするだけで、単一国籍と認められるのです。

 どちらを証明するのも簡単なことです。

 国籍選択の宣言は国籍法第14条2項に定められた手続きをすることによって日本の戸籍に記載されますし、台湾国籍を喪失していれば戸籍法106条に定められた通り国籍喪失を知った日から1ヶ月以内に国籍喪失の届出を行っていてしかるべきですから、これも自分の戸籍に載っています。

 つまり、台湾内政部の記録を調べるまでもなく、順法な暮らしを行っていれば日本の戸籍だけで証明ができるのです。

 なお、台湾の国籍喪失喪失許可を受けている場合に行うのは、国籍喪失の宣言ではなく、戸籍法106条の届出です。

 さらに、国籍選択の宣言も、国籍喪失の届出も、帰化事項とは違って「戸籍の移記事項」に入っていますから、わざわざ日本国籍取得当時の除籍謄本まで遡らなくても現在戸籍を確認するだけで、二重国籍ではないことを証明することができるのです。

 今、二重国籍ではないと主張されている2016年9月上旬現在に、すでに国籍選択の宣言をしていらっしゃったら許してあげてください。
 それが、蓮舫さんの自らの国籍に関する意思表示です。 

 日本国籍取得時の身分証明書のコピーの一部分などを小出しにインターネットの記事に掲載するのじゃなくて、現在の戸籍謄本を示して、すっきりしたら良いのになあと思います。

 

注釈※1:改正国籍法附則(昭和59年5月25日法律第45号)第5条の経過措置とは、昭和60年1月1日から3年間に限って、帰化申請ではなく、届出により国籍取得ができる時限立法でした。なお、この国籍取得届は、国籍選択の宣言とは全く違うものであり、国籍取得届をした後に、あらためて期限内に国籍法に基づいて国籍選択届(国籍選択の宣言)をするか、戸籍法に基づいて外国国籍喪失届を提出することが必要です。

 

2006年施行中華民国国籍法(現行)

2006年1月27日~現在

第十一條

中華民國國民有下列各款情形之一者,經內政部許可,喪失中華民國國籍:
一、生父為外國人,經其生父認領者。
二、父無可考或生父未認領,母為外國人者。
三、為外國人之配偶者。
四、為外國人之養子女者。
五、年滿二十歲,依中華民國法律有行為能力人,自願取得外國國籍者。
依前項規定喪失中華民國國籍者,其未成年子女,經內政部許可,隨同喪
失中華民國國籍。

1929年施行中華民国国籍法

1929年2月5日~2000年1月13日

第十條
  中國人有左列各款情形之一者,喪失中華民國國籍:
一、為外國人妻,自請脫離國籍,經內政部許可者。
二、父為外國人,經其父認知者。
三、父無可考或未認知,母為外國人經其母認知者。
依前項第二、第三款規定喪失國籍者,以依中國法未成年或非中國人之妻為限。

第十一條
  自願取得外國國籍者,經內政部之許可,得喪失中華民國國籍。但以年滿二十歲以上,依中國法有能力者為限。

日本国国籍法

第十四条
外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法 の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。

第十五条
法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。

2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。

3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この限りでない。

第十六条 
選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。

3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。

4 第二項の宣告は、官報に告示してしなければならない。

5 第二項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。

日本国戸籍法

第百六条
外国の国籍を有する日本人がその外国の国籍を喪失したときは、その者は、その喪失の事実を知つた日から一箇月以内(その者がその事実を知つた日に国外に在るときは、その日から三箇月以内)に、その旨を届け出なければならない。

2 届書には、外国の国籍の喪失の原因及び年月日を記載し、その喪失を証すべき書面を添付しなければならない。